会長挨拶

令和3年福岡中経協新年祝賀会(1月5日)挨拶

会長 山口 秀範

 明けましておめでとうございます。1年前は夢想だにしなかった状況下、それでも皆様.ご家族お揃いで健やかに新年をお迎えのこととお慶び申し上げます。
昨年のこの会でご披露した一文字をご記憶でしょうか。「輪」でした。そしてその際に私はこう付け加えたのです。――半世紀前の「五輪」が日本の国際的地位を一変させた如く、今回も世界の人々から日本をお手本にしようという機運が高まるでしょう。そしてそれがインバウンドの観光や、日本産品・製品を購入したいというビジネスチャンスに繋がって来ることは言を俟ちません――と。しかし、その後事態は急変してオリンピックは1年延期され、今夏の開催さえ危ぶまれる昨今の動向です。
多くの団体や企業が主催する賀詞交歓会の中止が相継ぐ中で、福岡中経協はご案内通り感染防止対策を徹底しつつ本日の開催に到りました。趣旨ご理解の上ご参集下さいました会員の皆様方と、限定してのお声がけに呼応してご来駕頂きました、九州経済産業局長・米田健三様はじめ来賓各位に、改めて御礼申し上げます。

 様々な事柄が例年の延長線上に無くなったその一環として、毎年本席にてご紹介して来た天皇陛下のお歌も、両陛下の地方行幸啓がすべて取り止められたことの帰結として、今年のお正月は御発表自体が見送られてしまいました。それに代わって元旦5時半に両陛下のビデオメッセージがYouTubeを通じて公表されました。ご覧になった方も多いかと存じますが、その一部をご紹介します。
「私たち人類は、これまで幾度も恐ろしい疫病や大きな自然災害に見舞われてきました。しかし、その度に、団結力と忍耐をもって、それらの試練を乗り越えてきたものと思います。今、この難局にあって、人々が将来への確固たる希望を胸に、安心して暮らせる日が必ずや遠くない将来に来ることを信じ、皆が互いに思いやりを持って助け合い、支え合いながら、進んで行くことを心から願っています」。
〝団結力と忍耐で試練を乗り越え、思いやりを持って助け合い支え合いながら、より良い将来を目ざす〟ことを、中経協会員である私たちが率先して今年の目標に掲げたいと心を正される思いで拝聴致しました。

 確かに私たち日本人も、長い歴史の中で度々国を揺るがすような災害、事変に遭遇し、何とかそれらを克服して来ました。平安時代末期から鎌倉時代の初めにかけて活躍した、俊乗房重源という僧侶もその一人です。
治承四年(1180)、平家が興福寺の僧兵を攻めた折に、隣接する東大寺の大仏殿を焼失してしまいます。その翌年は「養和の大飢饉」、5年後には阪神淡路大震災を超える規模の地震が京都を襲い、人々の恐怖と絶望は頂点に達します。鎮護国家の象徴・東大寺が焼け、大仏の首も手も折れ曲がる惨状の復旧に抜擢されたのが「支度第一の俊乗房」と呼ばれる俊乗房重源でした。「東大寺再興の大勧進」の法皇宣旨を受けた61歳の重源は、「過ぎ去った己の人生のすべては、ただこの時、この試練のための準備にすぎなかったという気がしています」と語り、6度宋に渡って得た新知識とその後の実績を踏まえて、それから20年余、大仏修復から大仏殿再建、南大門仁王像開眼供養まで陣頭指揮を続けました。「天下の一大事」を自分の使命と捕えて86歳まで邁進した重源の気概を見倣いたいものです。

 火災からの復旧ということでは、中経協会員企業で2年前に本社と工場の火災に見舞われた、株式会社グリーンプロップに言及させて頂きます。
本社全焼という逆境を従来の経営体制や事業計画の全面的見直しに繋げて、見事に克服しつつあります。代表取締役の川添克子さんには当会理事をお務め頂いており、理事会への復帰も間近と伺っています。

 さて、疫病蔓延と共に、私たちのビジネス環境は急変しています。盛んに唱えられた「働き方改革」は、リモートやオンラインワークの導入により、期せずして大きく変貌を遂げました。営業の戦略や他業種との連携(コラボレーション)にも新しい発想が求められるようです。採用や研修のあり方も様変わりしつつあります。そしていよいよ加速するICTの進化に対応せねばなりません。
会員企業の多くが直面する様々な課題に、福岡中経協として情報提供や方向性の示唆を続けます。同時に各委員会活動を通じた会員相互の意見交換が改善のヒントを導き出します。状況を見ながらリアルとオンラインを併設して、活動・交流のギアを上げて参ります。

 一方、眼を世界に転じると、時代の大きな変革点に差しかかっていることが予感されます。1989年にベルリンの壁が崩壊した時には、自由社会・民主主義が広く行き渡り、世界平和の実現を多くの人は楽観視しました。しかしその後民族紛争は反って激化し、民主主義国家はむしろ減少して、中国共産党膨張の影響を受けた「非民主国」の数が世界の過半数を超えているとのことです。アメリカの凋落が明らかとなった今、非民主主義を奉ずる近隣諸国に囲まれる日本の国土と国民の自由を守るために、防衛力の整備増強と、精神的にも強い国民の養成は喫緊の課題です。憲法改正が急がれる所以でもあります。

 その上で、次の時代に向けて日本の果たすべき役割を自覚しておくことが大切になります。今から80年前、アメリカとの戦争が始まった頃に、気鋭の文人たちに哲学者、科学者、芸術家も加えて「近代の超克」と題した大座談会が開かれました。それに関連して文芸評論家の小林秀雄は「歴史は決して二度と繰り返しはしない。だからこそ僕等は過去を惜しむのである」という有名な一節を綴り、当時の世界を席巻していた進歩史観・唯物史観を批判したのです。「歴史を貫く筋金」は、「因果の鎖」――単なる繰り返しや必然の出来事――ではなく、「僕等の愛惜の念」――かけがえのない体験、子供に死なれた母親の感情に匹敵する――という重要な指摘でした。しかし敗戦によってこの価値観は広く受け入れられるに至りませんでした。

 現在のパンデミックが一段落した時に、必ずや今度は「現代の超克」が世界的な話題となるでしょう。その時に、非西欧で近代化・民主化を成し遂げた日本からのオピニオンを世界に向けて発信するに、私たち一人ひとりもその答えを用意しておきたいものです。そのヒントは「皆が互いに思いやりを持って助け合い、支え合いながら、進んで行くことを心から願」うとおっしゃる天皇陛下のメッセージにあり、対立抗争を繰り返す世界のリーダーたちへ大変新鮮に響くに違いありません。
福岡中経協で歴史や古典を学ぶ場を用意しているのは、ぶれない歴史観、世界観を身につけたいという願いからです。IT,IOTから歴史、古典まで――つまり経営ツールから経営者の哲学や見識まで――を共に学べる中経協が、今後益々発展して行くことを念じます。

 以上を踏まえて「中経協今年の一字」は「克」と致します。
困難の克服、時代の超克、そして自分自身に打ち克つ――克己――が今年の漢字のイメージです。グリーンプロップ社長・川添さんのお名前――克子さん――も花を添えて、書家である浦岡香理事に引き続き揮毫をお願いしました。
ご参加の皆様にも、この後の時間でそれぞれの一字をお書き頂く趣向になっているようで、楽しみに拝見したく存じます。

 本年も福岡中経協へ皆様方の積極的なご参加をお待ちします。
定番の「和のテイスト」での新年祝賀会、どうぞ限られた時間を最後まで和やかにお過ごしください。
令和3年が明るい光の見える年になるように、ご参集皆様方のご健勝とご発展を祈りつつ、年頭のご挨拶とさせて頂きます。

令和3年1月5日
一般社団法人 福岡中小企業経営者協会

会長 山口 秀範

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