社長に就任して丸1年になりますが、この1年で西日本新聞社の最大の“売り”は何かというと、昨年9月にスタートした五木寛之さんの新聞小説『親鸞』でしょう。元気を失い、暗く閉塞感に満ちた現代は、親鸞が生きていた平安末期の、末法思想が流行っていた世相とそっくりです。五木さんは執筆動機として、自殺の増加、経済社会の混乱、自力社会の限界を挙げ「社会の荒廃がどんどん進む時に黙っているわけにはいかない。親鸞という思想家の教えを書くことで、今の世の中に対する自分の考えを述べたい」と語っておられます。
一方、新聞社側にも、ニュースはネットやテレビで足りる、新聞は取っているがじっくり読まないという人が増えている今、『親鸞』でもう一度、新聞を見直してほしいという連載動機があります。新聞小説は、かつて朝日新聞が夏目漱石を記者に迎えて『虞美人草』を連載し、飛躍的に部数を伸ばした実績があるように、大きな購読動機になり得るものです。『親鸞』をきっかけに、毎日開いてもらえる新聞、見出しだけでなく読まれる新聞、そして五木さんに現代の夏目漱石を期待したいと思っております。
新聞は構造不況業種と言われ始めました。新聞経営はずっと、広告収入と販売収入が半々でやってきましたが、インターネットや携帯電話などメディアが多様化し、新聞の広告媒体としての地位が下がっています。当社も広告収入はピークだった10年前の約半分近くになり、プラスに転じる状況ではありません。若者の新聞離れと合わさって構造的問題です。新聞界は経済・金融界以上に大きな転換期に入っていると言えます。
宅配システムがしっかり機能している日本はまだましですが、米紙はこの2年間で広告収入が23%減少し、今年1~3月も前年比25%減という状態で、ニューヨークタイムズやワシントンポストも含め、相当な経営危機にあります。アメリカ上院の通信技術・ネット小委員会が「新聞再活性化法案」を上程したほどですが、さすがにこれは新聞界から反発を受けました。 フランスでは18歳の成人を迎える若者に、政府が総額6億ユーロもの補助金を出して、無料で新聞を配っています。 新聞をとりまく状況は、それほど深刻です。
これからの新聞社の課題の一つがデジタル化です。朝日新聞、日本経済新聞、読売新聞の連合が作った「ANY」というサイトでは、各社の社説を読み比べることができます。全国紙の動きに先行して、地方紙も47都道府県から1紙ずつ参加して「47NEWS」というニュースサイトを作っています。ニューヨークタイムズは、発行部数が110~120万部程度ですが、オンライン読者は世界に2000万人います。しかし、ニュース自体は無料ですので、オンライン課金による収入増を検討中だそうです。これからはもう、そうせざるを得ない時代だということです。日本でも、来年6月に日本経済新聞が有料の電子新聞を本格的にスタートさせる予定で、これには我が社も含め、全国の新聞社が非常に注目しています。
もう一つの課題は新聞社の経営環境です。新聞社は、社会に欠かせない言論ジャーナリズム機関として再販価格維持制度に守られ価格競争が基本的にはありません。また言葉の壁によって国際競争もなく、さらに読者の方々と購読契約を結ぶことで商品の在庫管理がいらない恵まれた経営環境にありました。ただ、サンケイ新聞が東京で夕刊をやめて購読料を下げたり、朝日新聞がCBSのウェブ事業の日本法人を引き継いだりといった動きがすでに出てきています。我が社も釜山日報と提携していますが、さらに提携が進めば、広告をはじめ営業的にも国際競争が始まるでしょう。また、規制緩和の流れに沿って再販制度が崩れ、契約による読者の確保が難しくなる可能性もあります。今後は、その中で新聞の将来を考えなくてはいけません。
朝日新聞がKDDIやJTB、テレビ朝日との連携を強めていますが、これからの経営面の展望としては、さらに通信社や雑誌社なども巻き込んで、オールメディアで新聞社が生きていく時代になると思います。
対読者では「スーパーローカルへの道」を探ります。一つには、手触りのある紙での読者・新聞社の双方向交流を図ることです。人口減もあって部数は大きく増えませんが、その分、より強く読者と結びついたメディアを目指します。そして、もっと地域に入って、市町村議会のレポートなど、より身近な、地方紙にしかできない話題を届けていきます。さらに、広告分野ではすでに連携例がありますが、九州の新聞が連携して地域ジャーナリズムを守ることも必要になります。また、平日はあまり新聞を読む時間がとれないので、平日は薄く、土日は厚くする発行形態なども考えられます。
社会の木鐸としての役割が第一の新聞社ですが、地域の新聞として何としても生き残り、地域が育んできた文化・経済・社会・歴史的な価値を高めるためにお手伝いする新聞を作っていきたいと改めて思います。今後ともご愛読、よろしくお願い申し上げます。
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