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中経協ニュース 2006年12月号

日本という国を立て直し、日本文化を再生するには、 共同体の原理を学び、市場原理との均衡を図る必要があります。

拓殖大学教授/日本文化研究所所長
 井尻 千男 氏

井尻千男氏は、拡大・拡散する方向に動く市場原理と求心的に働く共同体原理の両方を語ることで、国や都市、文化のあり方を斬新かつ広範に論評されている。特に氏の共同体論には日本や地域社会再生のヒントが多く、町長として旧大山町を引っ張ってきた三苫氏との対談は、熱と共感のこもったものとなった。

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1938年山梨県生まれ。立教大学文学部日本文学科卒。日本経済新聞社入社後、記者、コラムニストとして活躍し、編集委員を経て1997年退社。同年より『週刊新潮』にコラム「世間漫録」を連載。2004年8月からスカイパーフェクTV「報道ワイド日本」にレギュラー出演。著書に『自画像としての都市』『日本再生』『消費文化の幻想』他多数。
三 苫 私は戦後60年の間に日本のかつての文化が失われてしまったこ とを憂えている一人ですが、近年になって食べ物にしてもファー ストフードからスローフードへ、あるいはロハスという方向に動 いています。アメリカナイズされた日本に揺り戻しが来て、日本 がアメリカからヨーロッパ指向に変わりつつあるのではないかと 感じているんですが。
井 尻

日本は歴史が古くてさまざまな文化を育んでいるという意味では ヨーロッパ的で、日本人の感受性もヨーロッパとの連帯の方がし やすいところがあります。でも戦後、占領政策があって、急速に アメリカの影響を非常に強く受けました。文明論的に言いますと、 ファーストフードはアメリカの象徴、ヨーロッパはスローフード なんです。日本人がちゃんとした家庭料理を回復し、祈りや感謝 をこめて食べるということはスローフードですよね。ファースト フードには感謝も祈りもなくて、ただのエサです。そういう違い がありますから、日本は食文化をあるべき姿に戻すということだ けでも相当大きい文化活動になり得ますよ。なお言えば、三苫さ んも関わっておられた大分の一村一品運動。あれも食材を量的な 規模だけで考えるんじゃなくて、いかに付加価値の高い良い食材 を作るかの競争ですし、世界に与えた影響は大きいですよ。。

三 苫

先生の共同体論に関連しますが、旧大山町では38年前からイス ラエルのキブツに若い青年たちを送っていたんですよ。 それはキ ブツの共同体社会を学習させる為です。キブツの共同体を学習し た彼らが今、町の中核を担い、まさに運命共同体という意識で町 を愛し、誇りを持って外部に郷土愛を語っております。

井 尻

いや、驚きました。それはもっと声を大にしてください。私は共 同体と市場原理という二つのことを言っていますが、共同体の究 極の形がキブツです。もう一方で世界金融においてもユダヤ資本 は強い。一つの民族が共同体も探求し、同時に市場原理も展開し ていくというユダヤ人独特の二元論には、非常に学ぶべきことが 多くあります。日本人もグローバリズムの市場原理を追求せざる を得ないとしたら、同時に共同体の原理を教えるべきです。僕は 共同体と市場原理の均衡を探すのが、政治家の大いなる役割だと 思います。

三 苫

憲法論や教育基本法の改正などの議論にも、先生のおっしゃるよ うな哲学が必要ですね。

井 尻

教育基本法は非常に大事な法案なのに、野党が審議拒否だとか、 言ってみれば政局がらみにしちゃってるというのが日本の政治の 不幸ですよね。こういうケースこそ与党と野党が協力して、多少 の修正方向に歩み寄ってやるべきなんですが。

三 苫

子どもの問題をはじめとして、今の世相は本当に乱れきっていま す。そのあたりを議論するにあたっても、先生の言われる共同体 論のようなものがベースにあればと思います。

井 尻

日本という共同体が蓄積してきた知恵や文化を次の世代に引き継ぐ、僕はこれが義務教育だと思っています。ですから義務教育にこそ、自国の歴史の素晴らしいものや、日本という共同体の構成員であるという国民意識を大いに盛り込まなきゃいけません。いじめをきっかけにした子どもの自殺なんかの報道に接しますと、僕は戦後の教育の問題ももちろんですが、やはり家族や地域社会という共同体が衰退して、傷ついた子どもを救済できなくなっていると感じます。子どもたちは何で今、自分が生きているのかがわからない。自分の存在が稀薄になって、死の誘惑にかられてしまう。しかし、共同体意識はそういう時に個人を支えるんですよ。素晴らしい日本の歴史と共同体の中に自分が誕生して、親や兄弟やみんなに支えられて生きてるんだという自覚と勇気が生きる力になるんです。子どもだけではなく、日本ではもう連続して7年ぐらい、毎年3万人以上の大人が自殺してるんですね。大人の自殺も同じく、立ち直る人間を支援したり、傷ついた人を包み込んで盛り上げる共同体の助け合いの精神というのがなくなっていることが大きいと思います。教育に関わる人や政治家は、この問題を深刻に受け止めないといけないですね。

三 苫

最近、イスラエルのコーヘン大使が日本の武士道とユダヤ魂について講演され、日本は戦後60年で武士道をなくしてしまったという話をされたんですよ。同じように台湾の李登輝前総統も日本の武士道精神の大切さを説き、日本の現状を憂慮されていました。

井 尻

コーヘンさんは武道を大変修練されてますし、武士道も筋金入りですか ら、かつての誇り高い日本民族がどうしてこうなっちゃったんだろうとい うことになるんでしょう。ユダヤ人と日本人は、マサダの戦いでの集団 自決と大東亜戦争末期の特攻に見られるように、ある共通した気質を持っていると私は思います。両民族のその後の生き方を比べても、なるほど、歴史というのは大変おもしろいなと思いますね。

 三 苫   今こそ、日本本来の文化を取り戻す時だと思います。お忙しいと ころ、いいお話をどうもありがとうございました。
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<聞き手>
(社)福岡県中小企業経営者協会
理事 三苫 善八郎 氏


福岡県中小企業経営者協会
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